らくごdeにほんご
落語で日本語が身につくのは、
面白いからだけではありません
「らくごdeにほんご」は、日本語を学ぶすべての方のための道です。 海外で育つお子さん、日本語を学んでいる大人の方、どなたでも。 落語には、ことばを教える道具として、ほかの教材が持っていない仕組みがあります。 五つ、順にご説明します。
ほとんどが、会話でできている
教科書の日本語は説明文です。落語は、はじめから終わりまで人が人に話しかけています。
はじめに習う噺を数えたところ、語りの部分は一割ほどでした。残りはすべて誰かの台詞です。読むための日本語ではなく、交わすための日本語が、最初から最後まで続きます。
上下(かみしも)— 敬語が、空間になる
これが、ほかの日本語教材にはないところです。
落語は一人で何役も演じます。目上の人に話すときは体が一方を向き、目下の人に話すときは逆を向く。つまり「〜でございます」と言うとき体は左を、「おう、なんでえ」と言うとき体は右を向いています。敬語を規則で覚えるのではなく、向きが変わると言葉が変わる、という形で身体に入ります。
目上の人に
「〜でございます」
◀ 体は左を向いている
目下の人に
「おう、なんでえ」
体は右を向いている ▶
笑えたら、わかった
落語にはオチ(サゲ)があります。
オチで笑えたなら、意味が伝わっています。笑えなければ、まだどこかが分かっていません。テストをしなくても、本人が自分で気づけます。だから私たちは、稽古の最後までオチを明かしません。
声に出すところまでが、稽古
読んで終わりにはなりません。
落語は演じるものなので、必ず声に出します。読めるけれど話せない、ということが起きにくいのは、そのためです。
同じ言い回しが、面白いから何度も出てくる
落語は、わざと繰り返す芸です。
「寿限無」の言い立て、掛け合いのオウム返し。単語帳の反復は退屈ですが、落語の繰り返しは可笑しいから何度でも言えます。決まった言い回しが、意味のある場面のまま身につきます。
一席の稽古で、三つが同時に動きます
音・ことば・文化。この三つは、切り離すと落語ではなくなります。 毎回すべてに触れながら、その週はどこを深くやるかを決めていきます。
| 層 | 中身 | どこで身につくか |
|---|---|---|
| 音 | 発音・アクセント・リズム・間(ま) | 正しい読みの稽古、言い立て、掛け合いのテンポ |
| 語 | ことば・言い回し・敬語や話しかた | 台詞そのもの。上下の切り替え |
| 文化 | 季節・行事・暮らし・江戸のこと | まくら、噺の背景、毎回の文化のはなし |
正しく、それから自由に
はじめに
型のとおりに
発音、アクセント、ことばのリズム。まずは正しく言えるように稽古します。
そのあと
自分の言葉に直す
言い回しも仕草も、その人らしく変えていい。落語では、ここが最終目標です。
ふつうの語学では「正確に話せる」が目標で、崩すのは応用です。落語は逆で、型どおりに言えるのは通過点、自分の言葉に直せて一人前。 自分の言葉で言い直せるようになったとき、そのことばはもう身についています。
こうはしません
訳してから読みません。
場面と身体で分かるようにします。先に訳を見ると、日本語を聞かなくなります。
文法用語から入りません。
台詞で覚えてから、あとで「いまのがこういう形」とお伝えします。
オチを先に明かしません。
自分で「分かった」と気づく機会を、こちらから奪わないためです。
「進んだ」を、記録に残します
入られた日に、短いお噺をひとつ録音していただきます。三か月後に、同じお噺をもう一度録音します。二つを並べると、 ご本人にもご家族にも、変化がはっきり見えます。
録音は稽古で使わないお噺で行います。稽古したお噺で測ると、上達ではなく暗記を測ることになるからです。 録音の扱いについては、保護者の方に事前にご説明し、同意をいただいたうえで行います。